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Another Worlds’ Story 雪降る炭鉱の山国

ここは、雪深い山々と豊富な地下資源に恵まれた国。

独自に発展を遂げたウインタースポーツ「スノーターレ」が国技となっており、高額の優勝賞金を夢見た人々が、今日もプロを目指して、世界中から集まってきています。

豊かな自然だけでなく、高度な教育機関を持つことでも知られているこの国は、他国からの留学生が多いのも特徴です。

主な産業は「スノーターレ」による観光業と、地下で採掘される鉱物の輸出業。
なかでも、緑色に輝く希少鉱石・ジグルマイトは「叩くと電気を発生する」という効果が隠されていて、まだ電気が存在しないこの世界において、とても価値のある、優れた資源となっています。

ある噂によると、このジグルマイトは裏ルートによって、「とある国」に高値で売られているのだとか。ジグルマイトがどこの世界に渡っていくのか、ぜひゆっくりと、各国を探してみてください。

  • 第一話
  • 第二話
  • 第三話
  • 第四話

赤、緑、黄色。海を渡った向こう、隣の島国から何色もの煙が上がっている。祝砲のようにも、救助を求めているようにも見えるが、ここからでは分からない。
視界を足元に戻す。白。一年中溶けない雪が、今日も目の前の世界を覆っていた。


「スノーターレ」という競技と出会ったのは、もう20年以上前になる。蒸気のエンジンを積んだ専用のマシンに乗って、雪の上を超高速で滑走する競技だ。
大きな車輪の中にまたがるようなマシンのデザインは先進的にも思えるが、命綱など一切ない。より速くゴールすることだけを考えて造られたそれに乗り、今日も滑る。
もう何年も続けてきたことだ。今更恐れることはない。なんでも慣れてくれば、それが日常になるのだ。賞金で暮らすこの日々も、時にはクラッシュし大きな怪我を負うことも、日常。今日もいつも通り、レースはスタートした。


ところどころ生えている草木や岩を避けながら、マシンは猛スピードで進んでいく。
アクセルレバーを握るほど速度は上がり、視野が狭くなる。それでもさらに加速する。カーブの直前まで、突っ走る。
他の選手はここでブレーキを踏むだろう。でも俺はまだ、緩めない。もっともっと、速くなる。カーブの先には、崖がある。その崖ギリギリで曲がればいい。
そう意識して、ハンドルを左に切ろうとした瞬間、日常は非日常につながった。
例の煙が、視界に映る。赤、緑、黄色。なんだ、あれは?


まさに俺は、日常から非日常に、投げ出された。崖の端を越えて、宙を舞う体。
マシンが5メートル近く先、視界の隅に映る。重力に従い、まっすぐに自分が落ちていく。
ガサガサガサと、針葉樹の葉が体を刺しながら、さらに深く深く落ちる。
視界は定まらず、生命というよりは、もはやただの物体だった。
バラバラになりそうな体を、どうにか筋肉でつなぎとめる。
深く、深く、落ちていく。深く、深く……。
(第二話へつづく)

「自ら危険な競技に身を置くなんて、勇敢というより野蛮でしょう?」
彼女はそういって、ろくに話も聞かない。身体を起こして再度話しかけようとしたが、部屋の中は炭の匂いと熱気で満たされており、あらゆる気力を奪った。あの白い雪と開放感のある空に囲まれた地上とは、まるで違う世界みたいだ。
いったい何百メートル落下したのか。途中、何度か針葉樹に引っかかったことが幸いして、致命傷は避けられたみたいだったが、それでもここまで回復が早かったのは、きっと彼女の治療のおかげだろう。
俺はスノーターレの選手であることを彼女に伝え、逆に彼女からは、ここでどんな暮らしをしているのか聞いた。日もロクに当たらないような炭鉱で、ひたすら採掘と加工をする日々は、俺には地獄のように思えた。



「あなたみたいに、自由に生きられる人ばかりじゃないから」
そう話す彼女は、全てを諦めているようにも、ここで希望を待っているようにも思えた。
「なあ、さっきから手元に置いている本、ボロボロだけど、何なの?」
「これですか? 辞書です。ずっと昔に、輸入船に落ちていたものを拾いました」
「辞書!辞書なんて持ち歩くのかよ」
冗談かと思って笑ってみたが、脇腹が痛くてうまく笑えない。それに、彼女は真顔のままだった。
「私は外の世界に行ったことがありません。この辞書を頼りに、世界にどんなものがあるのかを学んでいます」
強い目をした彼女は言った。頬には炭がつき、辞書はところどころ破けているようだった。
「本や辞書なんかで表現できないことの方が、世界には多いと思うけどね。もっと自由になれよ」
そう言ってから、言葉が少し強すぎたと後悔した。予想通り、隣の女は、俯いて辞書をじっと見つめている。
「……自由は、知識で手にいれるものなハズです」
震える声からは、怒りも混ざっているように感じられた。決意を感じる強い瞳に、今度はこちらがたじろいだ。しばらくその瞳に圧倒されてしまって、それでようやく、俺は俺が彼女にしてやれることが浮かんだ。
「自由はな、金で買えるんだよ、嬢ちゃん」
「嬢ちゃんって、バカにしないでください」
「いや、嬢ちゃん。よく聞け。今度の大会、俺が優勝して、その金ぜんぶ、お前にくれてやるよ」
「え!?」
「そしたらお前さんは、こんな炭鉱仕事やめて、自由の身だ。世界中の本が集まる『知識の国』まで、向かえばいい」
ひどく驚いた顔をしている。瞳はひときわ大きくなった。
「なんで、そんな?」「看病してくれたお礼だよ。そのくらいしか、俺にはできねえから」
全身打撲したはずだが、体は動く。これなら、二週間後の大会には間に合いそうだ。
(第三話へつづく)

前回の大会よりも、シートの位置を少し後ろに下げて、座高を低くした。視界を広くするのが狙いだが、副次的にグリップが若干握りやすくなった気がする。
バッテリーは最新のモノに変えたし、エンジン音も好調。久々に乗ったサブのマシンだが、滑落事故で新車をぶっ壊すまでは、愛機としてずっと一緒に走っていた機体だ。相性が悪いわけがない。
「今回は、俺のためじゃなくて、命の恩人のために走るからよ。いつも以上に、絶対勝たなきゃいけねーんだ」
相棒に話しかけると、ドッドッドッドッと、エンジン音で返事をしてくれる。
スタートランプが灯るまで、あと10秒。全神経を集中させるため、長くゆっくりと息を吐いた。
ふと、あの女の言葉が、脳内で再生される。
「人の夢を預かっておいて、勝手に負けないでくださいね」
目を大きく見開く。視界に、青と白が広がる。
けたたましい音と共にスタートランプが灯った。俺はグリップを全力で握って、白い地面を蹴り上げる。

スノーターレのレースは8人で滑走する。同じコース内を全員で走るので、当然クラッシュも茶飯事だ。昔は純粋なレース競技だったが、いつからか機体を激しくぶつけ合う「ファイティング」に注目が集まるようになり、その傾向は年々、強まっている。

特にファイティングが起こりやすいのは、スタート時だ。全機体が近くにいる以上、前を走るには他のマシンを蹴り飛ばしてでも進むしかない。今日も例外ではなかった。現状、俺の前に二人いるが、ほぼ混戦状態とも言える。右から左から、蹴りつけようと足が飛んでくる。

最初のカーブに差し掛かったところで、俺はグリップを握ったまま、足元のブレーキを強く踏む。ギュギギと音を立てて、機体を1周半、わざとスピンさせた。
そのスピンに巻き込まれる形で、ライバルが3機倒れる。若い奴には分からないかもしれないが、レースに勝つには、まず、相手を減らす必要がある。これであとは、前に2機、後ろに2機。スピンから戻ると再びブレーキを離し、グリップにさらに力を入れた。

針葉樹をかわしながら、細いストレートを滑走する。後ろの方で低い叫び声がしたから、おそらく誰かが脱落したんだろう。
ここを抜けると、勝負所の最終コーナーだ。前にいる2機との距離は、十分追い抜ける範囲。あのコーナーまで今の距離を保って、一気に抜けば勝てる。
呼吸を浅くしたまま、前方に集中した。視界が狭くなっていく。
一瞬、あの女の持つ、古い辞書が頭をよぎった。あの辞書に、スノーターレのことはなんて書いてあるのだろう? あの女はおそらくレースの風景を見たことがない。いつかは見せてやりたいと思ったが、これに勝てば、アイツはこの国を出ていくのだから、それも実現しないだろう。



最終コーナーに差し掛かる。空は、いつも通りの青。俺はブレーキに手をかけず、じわじわと前の2機に近づいた。
3メートル、2メートル、1メートル。極限までスピードを上げ、ギリギリのところで、ハンドルを左に切る。一瞬スリップしそうな気配があったが、長く愛機として活躍した相棒が耐え抜いた。
車体をグッと傾け、前方にいたはずの2機に外側から一気に近づく。おそらくは視覚の外だろう。カーブを抜けたタイミングで一気に追い抜いた。

目の前にはゴールフラッグが見える。最後のストレートに差し掛かると、あとはグリップを強く握り続けるだけだ。後ろの2機との差は広がることも縮むこともないまま、走り続ける。
あと5秒。4、3、2、1。

遠くに聞こえる歓声を受けながら、静かに目を閉じて、深く息を吸う。
この瞬間だ。この瞬間だけが、俺を一番自由にしてくれる。
ヘルメットを外すと、心地よい風が吹いた。
「これで、アイツも自由だ」
俺は愛機にまたがりながら、大きく息を吐いた。
(第四話へつづく)

雪山や炭鉱ばかりが注目されるこの国だが、よく見れば街だってきちんと機能している。
山脈による高低差を利用した駅前広場には、宿や住宅が密集し、馬車も行き来する。
駅自体もかなり大きく、炭鉱列車から旅客鉄道まで、幅広い線路を一つの駅に有している。
俺も久しぶりに駅まで降りてきたが、構内は活気があって、雪山の上とは、まるで景色が違う。



「これを持っていくといい」
俺はポケットの中から、緑色に輝く鉄鉱石を取り出して、彼女の手に乗せた。
「え、これ、ジグルマイトじゃないですか!」
「しっ、バカ、声がでかい」
「これ、どうしたんですか? 国外に持ち運ぶのは禁止されてるんですよ?」
「お前、これ、なんのために使われてるか知ってるか?」
「え、宝石、じゃないんですか? 高く売れるって…」
「やっぱりな。ずっと知らずに掘ってたわけだ。これは“電気”ってものを生み出す最先端の文明機器だ。おそらく、知識の国にもまだ存在してないか、流通してても隠されている」
「嘘でしょ? なんでそんなものを、この国は?」


明らかに疑う目で俺を見ている。自由にしてやった身だというのに。
「いいか、嬢ちゃん。お前さんの知らないことが、この世界にはいーっぱい存在してる。そのボロボロの辞書にも書いていないことが、いーっぱいだ。例えば知識の国では、世界中の本が集まる図書館ってのが存在してるらしい。そこでは本を全てタダで読めるんだ」
「本が! 全部タダ!?」
「いいリアクションだ。だがな、きっとその図書館全ての本をひっくり返したって、書いてはいない事実がきっとまだあるんだ、この世界には」
「本にも書いていない事実…」
「だからな嬢ちゃん、お前はその目で、その事実を確かめてこい。そしてその時に、きっとこのジグルマイトが意味を持つはずだ。宝石以外の意味をな。わかったか?」
「でも…」
「法律がどうとか心配すんな。お前は一つの国に収まる女じゃねえんだ。でっかく自由に生きろ」
「…うん、わかりました。ありがとう!」
出発の汽笛。彼女は列車に飛び込むなり、俺に手を振った。
非日常はまた日常へと戻り、続いていく。俺は彼女に手を振り返すと、雪山まで戻ることにした。
(「いにしえの竜と森林の国」に続く)

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